8. ガレン大静脈瘤

 

ガレン大静脈瘤は、頭蓋内脳血管奇形の1%とされる稀な血管病変である.これは小児脳血管奇形の30%にあたるとされるが、実態は不明である.ガレン大静脈瘤の初めての報告は、1937年の Jaegerによるとされる [8].この頃は、脳動静脈奇形のetiologyとして先天性や外傷性かが論議されていた時期であり、Jeagerらは、脳深部にあり外傷の可能性のない症例、つまり先天性の例として症例を報告している.4歳の男児で、8ヶ月の頃から、鼻出血、心雑音、巨頭症、意識喪失発作、顔面静脈の怒張、頭部雑音、頭痛、嘔吐、精神発達障害などが、観察されている.autopsyで、2x 1 inch大の巨大なガレン大静脈があり、aqueductを圧迫していて水頭症が認められ、また両側の後大脳動脈の太い枝が直接ガレン大静脈につながっていた.

 

1963年に本邦でのガレンの大静脈瘤の第一症例が報告されて以来、1996年までに、約40数例の報告がなされているが、心不全ですぐに死亡した症例や診断にまで至らない症例も多数あると考えられる [9].筆者へのコンサルテーションや学会の発表症例数から考えると、この疾患の認知度が上がったことこともあり、最近は、日本で年間に少なくとも5例のガレンの大静脈瘤は発見されていると思われる.治療方法の進歩で、生命予後は向上しても、機能予後が不良の症例もあり、今後は治療の適応も考えていく必要がある [10].

 

8.1. 発生学的背景および血管構築

 

いわゆる“ガレン大静脈瘤”には、真のガレン大静脈が拡張したvein of Galen aneurysmal dilatation (VGAD)と発生学的にガレン大静脈ではなく胎生期の静脈で12週までに消退するmedian vein of prosencephalon (median prosencephalic vein of Markowski) の遺残が拡張したvein of Galen aneurysmal malformation (VGAM)がある [11,12].臨床症状や治療方法が異なるためこの両者の鑑別は重要である.このmedian veinはprimitive internal cerebral veinとも呼ばれ、発生初期の終脳の脈絡叢の導出静脈であり、胎生10週頃までに一対のinternal cerebral veinsに置き換わる.退宿したmedian vein of prosencephalonの頭側の一部が正常なvein of Galenとして残存しinternal cerebral veinと交通性を持つ [11].従って、VGAMは、妊娠の第11週頃までの脳静脈の発生過程での何らかのinsultが原因と推測されている.つまり遺伝的な要素は少なく、家族性発生の報告はない.vein of Galen aneurysmでは、diencephalonやchoroidal plexusからの静脈還流に直静脈洞が必要でないため、直静脈洞の形成不全や無形成を合併することが多く、この場合、直静脈洞に代わりfalcine sinusが発達する.また、後頭静脈洞やmarginal sinusの遺残が合併することがある.

 

VGAMの拡張したaneurysmal sacは、前方はMonro孔で、後方はfalxと小脳テントで囲まれたくも膜下腔に存在する.脳動静脈奇形が、軟膜下subpialに存在するのと異なり、VGAMは、脳実質外のくも膜下腔extracerebral, subarachnoid spaceに存在する.動静脈の短絡が、aneurysmal sacそのものにあるmural typevelum interpositum cisternに存在する動脈のネットワークを介してaneurysmal sacとつながるchoroidal typeに分けられる [12].この両者の間の移行型も存在する.深部静脈系(internal cerebral vein, basal vein of Rosenthal, precentral cerebellar vein, superior vermian vein)との交通性はないが、大きなfalcine sinus以外に、falxの他のveinやtentorial sinus (vein)との交通性がある場合もある.VGAMは、正常な脳静脈還流に関与していないため経静脈的に瘤内塞栓が理論的には可能である.VGADは、動静脈奇形、動静脈瘻、硬膜動静脈瘻が原因で二次的にガレン大静脈が拡張したものであり、深部静脈系と交通がある.そのためVGADに対する経静脈的塞栓術は、原則的に禁忌であるが、深部静脈系がretrograde venous drainageになっていて、ガレン大静脈が血行力学的に正常の脳灌流の深部静脈の導出路になっていない硬膜動静脈瘻では可能な場合がある.この場合、pial AVMとの鑑別が重要である.

 

VGAMでは、falcine sinusやoccipital sinus、marginal sinusが残存する場合やstraight sinus、transverse-sigmoid sinusの閉塞や頚静脈の狭窄など静脈系の異常も伴うことがある.後者の場合collateralsが問題となる.VGADでもfalcine sinusやoccipital sinusが認められる場合があり、VGAMとの鑑別点にはならない.テント上の脳表静脈から海綿静脈洞への側副血行路は、生下時には通常発達しておらず、その発達(cavernous sinus capture)は2歳の頃までかかるとされる.この場合は、venous congestionのためpial refluxが起こり痙攣、神経脱落症状、脳出血などを起こす場合がある.眼静脈から顔面静脈へのルートができれば、顔面静脈の怒張や鼻出血が認められる場合がある.テント下の脳表静脈からのpial refluxにより小脳扁桃下垂tonsilar prolapseやsyringomyeliaが起こることがある.

 

VGAMの栄養血管は、発生学的に考えるとprosencephalonとmesencephalonの動脈である.つまりprosencephalonの動脈には、anterior choroidal artery, posterior pericallosal artery, lateral posterior choroidal arteryがあり、mesencephalonのそれには、medial posterior choroidal artery, thalamoperporating artery, superior cerebellar arteryがある.実際の栄養動脈には、anterior and posterior choroidal arteries、posterior pericallosal artery、circumferential artery、mesencephalic arteryのprimary feederがある.Lenticulostriate artery、anterior and posterior thalamoperforating arteryがsecondary feederとなり、shunt部位に向かう場合もある.thalamoperforating arteryが特にsubependymal areaを通り(subependymal artery)、shunt部位に向かう場合がある.Mural typeは、circumferential arteryやposterior choroidal arteryが栄養動脈のことが多く、choroidal typeは、choroidal arteries, posterior pericallosal artery, thalamoperforating arteryが栄養動脈のことが多い.基本的に動静脈瘻は、くも膜下腔にあるので、このことを考慮し読影する.栄養血管と拡張した静脈瘤間には、arterial mazeと呼ばれるnidusに似た構造がある症例もあり、動静脈奇形によるVGADとの鑑別が重要である.VGAMとVGADの血管構築上の他の鑑別点は、中脳を貫通するtransmesencephalic artery [13]とdeep venous drainage (internal cerebral veinやbasal veinへのdrainage)との交通性があり、両者ともVGAMにはなく、VGADで存在する場合があることである.

 

ガレン大静脈瘤をYasargilは4つに分類している [14].Type 1,2,3がVGAM であり、Type 4がVGADであるが、Type 1,2,3間の区別が明確でなく、臨床的にあまり有用とは言えない.

 

Type 1: Pericallosal arteryやposterior choroidal arteryによって栄養される単純な動静脈瘻が拡張したaneurysmal sacの壁にある.

Type 2: 拡張したP1からのthalamoperforatorsがaneurysmal sacを栄養している.

Type 3: Type 1とType 2の合わさった構造.

Type 4: 血管奇形がありその導出路としてガレン大静脈が拡張している.

 

VGAMにおける深部静脈系の血行動態は、治療前には把握困難であるが、動静脈瘻が閉塞された場合には、深部静脈系から側頭葉の下部を通り、横静脈洞・S状静脈洞導出されるルートがはっきりする.脳血管撮影の側面像でこの導出静脈がε(イプシロン)shapeとして認識される.

 

8.2. 臨床症状

 

1964年にGoldらが [15]、年齢と臨床症状の関係を報告している.新生児期、乳児期発症のVGAMは高度の心不全fluminant congestive heart failureを合併している場合が多く、その多くはchoroidal typeである.乳幼児期発症のVGAMの多くはmural typeで、水頭症、頭囲拡大、軽度の心不全、痙攣等で発症し、さらに年齢が上がると、局所神経症状、頭痛、くも膜下出血が主な症状となる [12,15]. 頭部外傷などの検査で偶然に発見される場合もある.

 

VGAMでは、出生前に頭蓋内に動静脈瘻が存在するが、実際に心不全を呈するのは、多くは出生後である.これは、出生時に胎児循環から肺循環に血行動態が変化するためとされる.子宮内でのhigh-outputの心不全の報告もあるが、胎児循環でのlow resistanceのために、VGAMの動静脈シャントの全身への影響が少なくなるとされている.出生前に心不全のある症例の予後は不良であり、治療適応を考慮する必要がある.

 

8.3. 治療

 

胎児エコーで嚢胞性病変として妊娠後期に発見される場合がある.出産直後から心不全の管理や血管内治療が必要になる場合に備えてまず、経験のある病院に母体搬送を行い、新生児科が主体となり産科・脳神経外科・神経放射科・小児循環器科・集中治療科・麻酔科などで治療チームをつくる.予定出産であれば帝王切開を選択する.出産直後に新生児の全身状態・合併奇形の把握に努め、必要に応じて、気管内挿管、人工呼吸、臍帯血管の確保、橈骨動脈カニュレーションを行う.

 

治療には、内科的な保存的治療、開頭による直達手術、血管内手術、定位的放射線治療があり、個々の患者の年齢や症状、血管構築を考え治療方針をたてる.Mural typeの病変であれば、開頭による直達手術でも治療が可能の場合があるが、現在はより低侵襲な血管内治療が第一選択になる.choroidal typeの外科的手術は難しく、VGAM全体の開頭による直達手術の死亡率は33.3-91.4%と報告されている [16,17]. 血管内手術により、VGAMの治療成績は飛躍的に向上したが、新生児期に発症し、動静脈シャント量が多く、心不全を呈する症例は、最も治療が難しい [17].偶然に発見されるシャントが小さい症例は、治療を必要としない場合もある.出生前にエコーで診断された症例でも、必ずしも新生児期に治療が必要とは限らず、患者の臨床症状でその適応を決める.現在では開頭による直達手術よりも侵襲の少ない血管内手術が治療の第一選択と考えられている [10,16,18-21].治療によって、シャント量を少し減らせば、臨床症状が好転するため、1回の塞栓術で多くのシャントの閉塞を目指さずに、患児の成長を待って段階的な塞栓術を行う.定位的放射線治療は、治療効果が出るまで時間がかかるため、治療の第1選択にはならないが、年長児の治療効果を急がない症例には治療のオプションとなる [22].静脈瘤自身の自然血栓化による動静脈瘻の閉塞の報告もあるが、その予測が困難であり、かつ自然血栓化が良好な予後となるとは限らず、血栓化を待つよりも積極的に治療を行う.

 

血管内治療には、経動脈的塞栓術と経静脈塞栓術があり、病変への到達ルートは、経大腿動脈、経大腿静脈、経静脈洞交会、経臍帯動脈、経臍帯静脈がある.経動脈的塞栓術では、flow-guided type microcatheterであると動静脈シャントまでの到達は比較的容易であるが、この場合使用できる塞栓物質は、高濃度のNBCAとなり、そのコントロールは簡単ではない.over-the-wire type microcatheterは、頭蓋内外で動脈の蛇行・loopingが高度であることが多いため、シャント部位までカテーテルをもっていくことは困難な場合がある.新生児の頭部は、成人より小さく、モニター上で拡大した場合に同じに見える動脈の屈曲も、格段とR(曲半径)が小さいため予想以上に操作は困難である.また、脆弱な動脈壁に対してのコイル・ガイドワイヤーの使用は、血管穿孔やくも膜下出血の危険性がある.症例によっては、10 typeのover-the-wireのマイクロカテーテルをシャント近傍や栄養動脈に誘導可能であるが、頭蓋内動脈が伸展しくも膜下出血など出血性の合併症を起こす可能性がある.現在では、まず経動脈的塞栓術が行われ [10]、栄養血管まで到達できないときに経静脈的塞栓術が選択されることが多い [20,23].経静脈洞交会塞栓術は、静脈洞交会の穿刺部出血や瘤破裂による出血の合併症が多く、カテーテルなど機材の進歩した現在では行われない.塞栓物質には、経動脈的塞栓術にはNBCAやコイルが用いられ、経静脈的塞栓術にはコイルが用いられる.NBCAは、油性造影剤のlipiodolと混合し重合時間の調整をする.造影能が不足する場合に、tantalum powderを混ぜることがあるが、NBCA 濃度80%までであれば、通常のDSA撮影下で、十分認識可能であるためtantalumを混合する必要はない.静脈側の塞栓術に使われるコイルは、ボリュームも必要なことから18 typeのコイルが選択される.血流が非常に速いためコイルが流されるので、3D coilを使用したり、dual catheter techniqueを使ったりして、コイルのmigrationを防ぐ工夫を行う.

 

新生児の収縮期血圧は60 mmHg程度であるが、塞栓術中の意図的低血圧 induced hypotensionは有効である.塞栓術後は、24時間鎮静を行う.経静脈的塞栓術の場合、1回の塞栓術のend pointに明確なものはないが、staged interventionが薦められる.僅かの短絡血流低下でも臨床症状の改善が認められることが多い.VGAMでは深部静脈系との交通性はないが、急速に動静脈短絡を閉塞すると(特に導出路を閉塞すると)急性脳浮腫、視床出血、脳室内出血、クモ膜下出血を起こす場合がある.これは、未熟なgerminal layerに出血が起こりやすいこと、また視床穿通動脈の領域にperfusion pressure breakthroughが起こるためと考えられている [24].経動脈性塞栓術では、NBCAが末梢に飛び、varixやさらに静脈側を閉塞した場合には、経静脈性塞栓術の場合と同様に、出血性合併症の可能性があり、これが理由で高濃度のNBCAを用いた塞栓術を第一選択とし、あまりにも高流量がある場合には、コイルを使用し血流を落としてから、NBCAによる経動脈性塞栓術を行うことがある.ただ、コイルをシャント近傍の栄養動脈まで持っていくことは必ずしも容易でない.また、経静脈性塞栓術の場合でも、高流量のためコイルが流され、varix内に安定して留置することは容易ではない.

 

数多くのVGAMの治療を行っているLasjauniasらの経動脈的塞栓術のプロトコールを列記する. 1. 全身麻酔、2. 経大腿アプローチ、3. 4F sheath、 4F Mini-Torquer catheter (Nycomed、手元が通常の4Fカテーテルに近いが、先端はflow-guided catheterになっている)、4. Pure NBCA + tantalum powder (場合によりLipiodolを混ぜる)、5. 術中の低血圧70 mmHg、6. 診断血管撮影 椎骨動脈撮影 (AP, Towne)、両側頚動脈撮影 (Lateral)、造影剤3 ml/sec、7. 大腿動脈は左右交互に穿刺する、8. 術時間は、最長2時間、9. 24時間sedation、10. 術後は低血圧にはしない.

 

8.4. 水頭症

 

VGAMの約47%の症例に水頭症を合併し、その73%は幼児、年長児の症例である.水頭症や頭囲拡大が起こるメカニズムは、中脳水道の圧迫(aqueductal stenosis)ではなくhydrodynamicsの異常、つまり髄液の吸収障害によると考えられている.髄液シャント術が施行された症例の41%で合併症が起き、10%が死亡している.脳室穿刺による出血が主な原因であり、脳室ドレナージも同様にリスクが高い.また髄液シャント術を施行していない症例の方が、施行した症例よりも予後ははるかに良い.水頭症の治療は、まず血管内手術で動静脈シャントを減らすべきであり、髄液シャント術によって、かえって臨床症状の悪化をもたらすことが多く、避けるべきである [25].しかし、VGAMで簡単に治癒にもっていけない症例では、症候性水頭症に対しては、VPシャント術が必要となるが、VP シャントの出血性の合併症のリスクは高い.もしシャントを行うのであれば、脳表の静脈怒張のある頭頂部を避けて前頭部に行う方がよい.

 

8.5. 予後・治療成績

 

Lasjauniasらの120例 [10]のVGAMの経験では、出生前診断が24例あり、50例が新生児症例、35例が幼児症例、12例が年長児症例であった.12例でfollow-upが出来ず、21例に治療の適応がなかった.5症例が自然に血栓化した.78例に経動脈的塞栓術を行ない、血管撮影上の治癒は38症例であった.治療を行った78例の内、47症例が正常に成長し、10例が一過性の脱落症状を呈した.6例が本来の病気のための神経学的脱落症状を残し、3例が術後の永続する脱落症状を呈し、7症例が死亡した.著者ら [18]の7例の経験は、choroidal typeが5例あり.新生児症例の3例は全例新生児期に死亡した.8ヶ月に軽度心不全で発症した1例は、経静脈的部分塞栓術直後に導出路の急性閉塞による脳出血で死亡した.2歳時に軽度心不全で発症した他の1症例は、2回の経静脈的塞栓術でAV shuntは消失し、神経学的に異常なく6年経過している.小児期のmural typeの2例は、血管内治療が一般的になる前の症例で、開頭による栄養血管のクリッピングを受け、血管内治療を行った症例とともに神経学的異常なく経過している.

 

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2006.8.6記 


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