眼窩の静脈性血管奇形・静脈瘤

 

眼窩の静脈性血管奇形 venous malformationは、眼痛、眼球突出 intermittent exophthalmos、眼球陥凹、眼窩内出血、眼瞼周囲の浮腫や出血、眼球運動障害、視力障害などで発症し、眼球突出があっても視覚障害が出現しないことも多いです.典型例では、怒責、頭位を下げる、Valsalva負荷などで、病変内の静脈圧が上昇し、眼球が突出します.逆に 頭位を上げる、Valsalva負荷を止めるなどで、眼球の突出が正常化します.逆に、眼球が陥没する場合もあります.これには眼窩内の脂肪組織の萎縮が関係します.非典型例では、このような眼球突出が誘発されない場合もあります.幼少時に症候性になることが多いですが、teenagerや成人になって初めて、また突然、症候性になることがあります


眼窩の血管腫や静脈瘤 varixと診断されることもありますが [Takechi 1994 , Weill 1998]、静脈性血管奇形のことです.腫瘍性病変の(乳児)血管腫ではないので、ステロイドやプロプラノロール(インデラール)は無効です.一時的に血栓化すると、腫瘤が大きいままで周囲を圧迫することがありますが、血栓が溶解するともとの状態に戻ります.普段から、血栓化が局所で起こったり、融解したりを繰り返していると思われます.その過程で、病変内の静脈石が形成されると思われます.病変は、眼静脈と直接交通性を持っています.従って、海綿静脈洞や顔面静脈と交通性があります.脳内の静脈性血管奇形 developmental venous anomaly(多くは同側にある)合併することがあります.この 脳内の静脈性血管奇形は、良性の血管奇形(正確には、破格ともいい、正常の極端なバリエーション)であり、通常は無症状です.他の部位の静脈性血管奇形と同様に、動脈血管撮影では写りません.従って、侵襲のある血管撮影の適応は通常ありません.ただ、稀に2次性に動静脈シャントが誘発されることがあります.この場合には、注意が必要です.病変の主体である静脈性血管奇形を見ないで、動静脈シャントだけを見ると、診断を動静脈ろうや動静脈奇形と誤診する場合があります.この動静脈シャントが自然と消失した症例を知っていますが、一般にどのような経過を辿るか、その予後は分かりません.静脈性血管奇形は、静脈石を伴うことがよくあり、この静脈石の診断的な価値は非常に大きくCTで静脈石が認められれば、静脈性血管奇形の診断確定になります.「先天性」や「原発性」などの接頭語を病名に付ける意味はなく、眼窩の静脈性血管奇形 venous malformationです.


外科的摘出術・電気凝固・硬化療法・局所薬剤注入法、コイル塞栓術(直接穿刺やカテーテル経由)・これらの併用療法の報告があります.ガンマナイフ治療の報告もあります [Xu 2011].外科的治療により全摘出は、困難な場合が多く、また出血の問題や眼窩内の外眼筋の運動障害を起こすことなど問題点があります.経静脈的塞栓術により大きなコイル塊を病変に挿入しても、視機能に全く影響のない場合がある一方で、コイル塊や静脈鬱滞・血栓化による失明を含めた視機能の悪化の報告があります.一例報告ながら、2回のブレオマイシンの局所注入で良好な結果を得た報告もあります [Vadlamudi 2015].中国からはより多くの症例で、ブレオマイシンに似たpingyangmycinの局所注入の治療により、大きな合併症もなくで比較的良好な成績の報告がされています [Jia 2013, Yue 2013].しかし、視覚を確実に守りながらこの疾患の治療を行うことは、どの治療法を選択するにせよ難しく、多少の視覚障害のリスクはあるように思います.急性の病変の血栓化の予測は困難です.急激に病変のかなりの部分が血栓化すると、疼痛・腫脹・視力障害は、出現します.実際の経験はないですが、このような状況では、抗凝固療法も選択肢になるかもしれません.


頭・頚部の静脈性血管奇形に、頭蓋内の静脈性血管腫 developmental venous anomaly(DVA)の合併が良く知られています [Burrows 2003].大きな頭・頚部の静脈性血管奇形の20%に 頭蓋内の静脈性血管腫 の合併が知られています.通常、興味深いことに、同じ側に病変があります.例えば、左顔面に静脈性血管奇形があり、左小脳に静脈性血管腫が認められるような、組み合わせがあります.


最近は(2022年)、頭頸部の血管奇形は大きくhigh flow 病変(Rasopathy)とlow flow病変(Pikopathy)に分け、静脈性血管奇形は、後者に属するのですが、病変形成の分子メカニズムが、随分分かってきました.その回路のどこかに選択的に作用する薬剤の開発が、日進月歩で進んでいるところです.


文献

Burrows PE, Konez O, Bisdorff A: Venous variations of the brain and cranial vault. Neuroimag Clin N Am 13:13-26, 2003


Jia R, Xu S, Huang X, et al: Pingyangmycin as first-line treatment for low-flow orbital or periorbital venous malformations. Evaluation of 33 consecutive patients. JAMA Ophthal doi:10.1001/jamaophthalmol.2013.8229


Takechi A, Uozumi T, Kiya K, et al: Embolization of orbital varix. Neuroradiology 36:487-489, 1994


Vadlamudi V, Gemmete JJ, Chaudhary N, et al: Transvenous sclerotherapy of a large symptomatic orbital venous varix using a microcatheter balloon and bleomycin. BMJ Case rep 2015, doi:10.1136/bcr-2015-011777


Weill A, Cognard C, Castaings L, et al: Embolization of an orbital varix after surgical exposure. AJNR 19:921-923, 1998


Xu D, Liu D, Zhang Z, et al: Gamma knife radiosurgery for primary orbital varices: a preliminary report. Br J Opthalmol 95:1264-1267, 2011


Yue H, Qian J, Elner VM, et al: Treatment of orbital vascular malformations with intralesional injection of pingyangmycine. Br J Ophthalmol 97:739-745, 2013


2013.11.1 記、2014.1.20、2015.7.15、2015.7.27、2017.10.4 、2019.7.3、2012.5.11 、2022.10.2追記


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