脳静脈性血管奇形(脳静脈性血管腫)

中枢神経系の血管奇形は、組織型から以下の5型に分類されます.毛細血管性血管拡張 (telangiectasia), 静脈瘤 (varix), 海綿状血管腫 (cavernous angioma), 動静脈奇形 (arteriovenous malformation: AVM), 静脈性血管腫 (venous angioma: VA) [1]の5つです.

 

Lasjauniasらは[2]、静脈性血管腫を(発生学的な)静脈性血管奇形 developmental venous anomaly: DVAと呼び、あくまでも正常な静脈の亜型で、その極端な形であるとしました.そして彼らは、静脈性血管腫の拡張した静脈は、後天的な静脈や硬膜静脈洞の血行力学的な異常に関係し、しばしば合併する脳出血は、静脈性血管腫に合併する海綿状血管腫に関係するか、もしくは血行力学的変化に対応しきれない静脈系の低くなった柔軟性に関係するとしています.静脈性血管腫が初めにあり、これが原因で海綿状血管腫が、発生する可能性も考えられています.

 

しかしHuangらは[3]、異なる考え方をしており、髄質静脈奇形 medullary venous malformation: MVMと呼んでいます.受精後、早期の血管形成期に脳静脈(脳表静脈・髄質静脈・脳室上衣下静脈)、硬膜静脈洞などが、部分的に閉塞や再開通を繰り返すため起こる静脈系の圧上昇が、関与する静脈系に逆行性に進展し、髄質静脈奇形(脳静脈性血管腫)が起こるとしています.

 

この静脈性血管腫に動静脈シャントが合併することがあり、その臨床的意義や治療方針に定まったものはありません.これに関しては、私の論文を参考にして下さい [4].


                     
           

 

                        3次元静脈造影 正面像                                               側面像



頭・頚部の静脈性血管奇形に、頭蓋内の静脈性血管腫 developmental venous anomaly(DVA)の合併が良く知られています [10].大きな頭・頚部の静脈性血管奇形の20%に 頭蓋内の静脈性血管腫 の合併が知られています.通常、興味深いことに、同じ側に病変があります.例えば、左顔面に静脈性血管奇形があり、左小脳に静脈性血管腫が認められるような、組み合わせがあります.


静脈性血管腫と妊娠


静脈性血管腫を持つ多くの若い女性が、問題なく出産しています [Rubin 1991]が、妊娠中や出産後に出血したという報告 [Malik 1988, Yamamoto 1989]もあります.妊娠中の循環血液量の増加や静脈圧の亢進が関係があるかもしれませんが、特に予防策はなく、これが理由で、妊娠を避けるということにもならないと考えます.


動静脈シャントを伴った静脈性血管腫 venous angioma with arteriovenous shuntsについて

    

[4]の論文を1999年に書いた頃は、この病態は比較的予後が良好だと思っていました.しかし、この論文の”おかげ”で、よくこの病気について相談を受けるようになり、思っていた予後と少し異なることに気づいてきました.


まず、この病変へ向かう動脈が太くなること、その一部の症例で、この動脈(feeding artery)に血流増加による動脈瘤が形成されることがあること、この動脈瘤は破裂すればくも膜下出血を起こすこと、静脈性血管腫自身も脳出血で発症するが、再出血を低頻度でなく(正確な頻度は不明ですが)起こすこと、などが分かってきました.


一見、 動静脈シャントを伴った静脈性血管腫は、脳動静脈奇形に似た血管撮影像を呈するため、この病変を良く知らない脳外科医には鑑別が困難です.特に、後頭葉に病変がある場合には、撮像方向の関係で、鑑別が困難な場合があります.注意深く脳実質内の髄質静脈の構築(medullary pattern)を観察する必要があります.血管撮影が、決め手になりますが、dynamic CTをうまく使えば、動静脈シャントを伴うかどうかが、わかる場合もあると思います.


静脈性血管腫と海綿状血管腫の合併は、良く知られていますが、中には、動静脈シャントを伴った静脈性血管腫と海綿状血管腫の合併があったり、お一人の患者さんが、動静脈シャントを伴わない静脈性血管腫と動静脈シャントを伴った静脈性血管腫を持ち、さらに海綿状血管腫の合併のある患者さんもいらっしゃいました.


脳動静脈奇形は脳内ではなく、基本的に軟膜下に存在し、脳実質を傷つけず摘出可能ですが、動静脈シャントを伴った静脈性血管腫は、脳実質内(parenchymal)にあり、正常な脳の灌流を担っているため、これを摘出することはできません.もし摘出するとすれば機能している脳実質も一緒に摘出することになってしまいます.結局、治療方針は、経過観察になります.放射線治療も現時点では、適応はないと考えます.

 


ガンマナイフの静脈性血管腫に対する治療


Lindquist ら[5]は、9例の静脈性血管腫にガンマナイフを行い、1例で完全閉塞、3例で部分閉塞を、また30%の合併症を報告している.この結果と静脈性血管腫の自然予後の良いことを考えると、現時点で静脈性血管腫に対するガンマナイフの適応はない [6].AVMと鑑別が必要とされる動静脈シャントを伴った静脈性血管腫も、transit timeが短い静脈性血管腫と考えられておりガンマナイフの適応はない [4].


                                  

参考文献

 

1. McCormick WF: The pathology of vascular ("arteriovenous") malformations. J Neurosurg 24:807-816, 1966

 

2. Lasjaunias P, Burrows P, Planet C: Developmental venous anomalies (DVA): the so-called venous angioma. Neurosurg Rev 9:233-244, 1986

 

3. Huang YP, Okudera T, Fukusumi A, Maehara F, Stollman AL, Mosesson R, Lidov M, Mitty HA: Venous architecture of cerebral hemisphere white matter and comments on pathogenesis of medullary venous and other cerebral vascular malformations. The Mt Sinai J Med 64:197-206, 1997

 

4. Komiyama M, et al: Venous angiomas with arteriovenous shunts. Report of three cases and review of the literature. Neurosurgery 44:1328-1335, 1999


5. Lindquist C, Guo W-Y, Karlsson B, et al: Radiosurgery for venous angiomas. J Neurosurg 78:531-536, 1993


  1. 6.Lindquist C, Karlsson B, Guo W-Y, et al: Radiosurgery and venous malformations. J Neurosurg 80:174-175, 1994 (letter)


7. Malik GM, Morgan JK, Boulos RS, et al: Venous angiomas: an underestimated cause of intracranial hemorrhage. Surg Neurol 30:350-358, 1988


8. Rubin SM, Jackson GM, Cohen AW: Management of the pregnant patient with a cerebral venous angioma: a report of two cases. Obstet Gynecol 78:929-931, 1991


  1. 9.Yamamoto M, Inagawa T, Kamiya K, et al: Intracerebral hemorrhage due to venous thromosis in venous angioma. Case report. Neurol Med Chir (Tokyo) 29:1044-1046, 1989


10. Burrows PE, Konez O, Bisdorff A: Venous variations of the brain and cranial vault. Neuroimag Clin N Am 13:13-26, 2003


 

 

2004.4.25記、2006.11.10追記、2007.1.30、2011.12.27、2012.3.26 、2013.4.17追記


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