小児期の脳血管内治療とはどんなものですか

 

1. 概念


interventional neuroradiologyとは、カテーテルを介した脳・脊髄病変に対する治療であり、脳血管内治療とも呼ばれる.治療手技で、病変を閉塞する場合(塞栓術 embolization)と狭窄・閉塞性の血管病変を開く場合(血管形成術 angioplasty)の大きく2つに分けることができる.前者には血管性病変に対する塞栓術と腫瘍性病変に対する塞栓術があり、後者は小児期に適応となる疾患は限られている.小児期のinterventional neuroradiologyと言えば、塞栓術をさすことが多く、ここでは血管性病変に対する塞栓術を中心に解説を行なう.


2. 対象疾患


小児期のinterventional neuroradiologyの対象疾患には、血管性病変と腫瘍性病変がある.血管性病変には、1.小児期に特徴的な血管病変と、2.大人でも認められる血管病変が小児期に認められる場合に分けることが出来る.小児に特徴的な血管病変には、動静脈シャントを伴うガレン大静脈瘤 vein of Galen aneurysmal malformation、先天性脳硬膜動静脈瘻 dural arteriovenous fistula、脳動静脈瘻 pial arteriovenous fistulaがある.大人でも認められる疾患が小児期に認められる血管病変には、nidus(動脈と静脈の間にある異常血管網)を伴った脳動静脈奇形 pial arteriovenous malformationと脳動脈瘤 cerebral aneurysmがある.


3. 画像診断


特に新生児期は低侵襲の画像診断が望まれる.優先順位として、超音波検査 > MR > CT >> 脳血管撮影の順になるが、患児の状態・検査目的にあわせて選択する.脳以外に心不全・右心負荷の評価や心奇形・動脈管開存なども超音波検査で評価する.CTによる出血と石灰化の評価も重要である.CTの造影検査は、腎機能不全がある場合には注意が必要である. MRによるarteriographyやvenographyも可能であるが、状態が悪いときにMR検査に時間を使うのは、あまり得策ではなく、axial image検査を短時間で行う.CTとMRで脳実質障害、水頭症、合併脳奇形の有無も評価する.診断目的だけの脳血管撮影は、侵襲的であり適応はない.


4. 症候学


小児期に発症する特徴的な動静脈シャントを持つ血管病変は、その疾患毎に特徴的な症状があるのではなく、疾患とは関係なしに、発症時期によってその臨床症状に特徴がある.つまり、1. 新生児期には心不全 congestive heart failureで発症し、2. 乳児期には水頭症 hydrocephalusや巨頭症 macrocraniaで発症し、3. 幼児期になると精神発達遅滞やけいれん、出血などで発症することが多い.


出生前に胎児エコーで偶然、病変が発見される場合もあるが、新生児期に症状を出す場合は、その疾患に関わらず心不全で発症する.重症例では、出生前に胎児水腫 hydrops fetalisとなり、胎内で死亡する場合もある.また出生しても心不全に加え、呼吸・腎不全を伴い、多臓器不全となり、治療が困難な場合が多い.腫瘍性病変である血管腫 infantile hemangiomaが新生児期に心不全を起こすことも稀にある.この時期には、動静脈シャントのため脳の静脈側の圧が上がる静脈性高血圧 venous hypertensionが起こり、脳循環不全が起こり、脳萎縮、脳虚血、脳出血による脳障害(melting brain syndrome)を呈する場合がある.乳児期には、静脈性高血圧のため髄液吸収が障害される髄液循環異常や中脳水道の狭窄・閉塞aqueductal stenosisなどのため水頭症や巨頭症が起こる.ガレン大静脈瘤では、ガレン漕 galenic cisternにある拡張した静脈瘤による中脳水道への圧迫が水頭症の原因と考えられる場合もあるが、多くの場合は機械的な閉塞ではなく、静脈性高血圧による髄液循環異常が原因とされる.この場合は、脳室腹腔シャント術(VP shunt)は、根本治療ではなく、シャント術に伴う出血性の合併症が多いため、動静脈シャントそのものに対する治療(塞栓術)を優先させるべきである.


5. 代表疾患(小児期に特徴的な血管病変)


ガレン大静脈瘤:頭蓋内血管奇形の1%とされる稀な血管病変である.これは小児血管奇形の30%にあたるとされるが、実態は不明である.胎生期の静脈で12週までに消退するmedian vein of prosencephalonが遺残し拡張したものがガレン大静脈瘤である.ガレン大静脈瘤では、動静脈瘻はくも膜下腔にあり、その動静脈シャントが、瘤そのものにあるmural typeと介在する動脈のネットワークを介して瘤とつながるchoroidal typeに分けられる.新生児期にはchoroidal typeが多い.


脳硬膜動静脈瘻: dural sinus malformation (with AV shunts)、infantile type、adult typeの3種類に分類されるが、ガレン大静脈瘤よりも発生頻度は低く、男女比はやや男性が多いとされる.S字状静脈洞、横静脈洞、上矢状洞遠位に起こるが、静脈洞交会の関与がある場合は、正常な脳の還流路を共有するため治療は困難で予後不良である.venous lake内に血栓を伴うことも多く、このため凝固系異常を合併し、出血傾向などの全身症状に対して抗凝固療法を必要とすることもある(Kasabach-Merritt現象).


6. 新生児期の血管病変に対する治療適応


動静脈シャントのため脳機能以外にも、心機能、呼吸機能、肝機能(凝固系の機能も含む)、腎機能の障害が来る.Lasjauniasは、これらの機能を点数化したneonatal evaluation scoreを提唱し、その点数により、新生児期の治療の適応を、適応なし(7点以下)、緊急の血管内治療(8-12点)、経過観察(13点以上)に分けている.全身状態が悪くなくても、脳障害があれば7点以下に分類している.画像上で脳障害が無くても多臓器不全のある患児では、塞栓術が上手くいっても正常な脳発達は困難とされる.緊急の血管内治療の目的は、シャント量を減らし、全身状態を改善し、体重が増加するまでの時間を稼ぐことであり、病変自体の根治ではない.つまり anatomical cureではなく、normal developmentが目的となる.新生児期に経過観察とされた場合も注意深い観察が必要で、生後5ヶ月ごろには症状の存在にかかわらず血管内治療が必要である.この時期以降になると脳の成熟障害が起こるとされる.内科的治療や血管内治療に対する反応が十分でないときには、合併する心奇形や動脈管開存も疑う.動脈管開存症例では、左→右シャントがあり、脳血管内治療の前に動脈管動脈管開存症に対する治療を先行させる場合もある.


7. 治療方法


動静脈シャントを呈する疾患に対する脳血管内治療の目標は、シャントそのものの閉塞、それが出来ない場合はシャント量の減少である.脳血管内治療そのものが、唯一の治療になる場合と外科的摘出術や定位放射線治療(ガンマナイフ、リニアックナイフ)の前処置として脳血管内治療を行なう場合の二通りがある.後者は、脳動静脈奇形の症例で、術中の出血量の減少や手術の時間短縮を目的として外科的摘出術前に行なわれる場合と、定位放射線治療の前に病変を小さくし照射体積の減少目的で行なわれる場合がある.脳動脈瘤が小児期に発見されることは多くないが、基本的な治療方針は大人と同じであり、開頭によるclippingか血管内治療によるコイル塞栓術を行なう.


脳血管内治療を第一選択とされるガレン大静脈瘤、硬膜動静脈瘻、脳動静脈瘻では、動静脈シャント部の閉塞を、動脈側からのアプローチ transarterial approachと静脈側からのアプローチ transvenous approachで行なう.


経動脈的アプローチ:通常、新生児であっても大腿動脈に4 Fench sizeの血管シースを挿入し、親カテーテルを内頚動脈や椎骨動脈に留置し、その中にマイクロカテーテル(2.3 French size)を通して、その先端を目的とする部位まで持っていき、塞栓物質でシャントを閉塞する.塞栓物質には、プラチナコイル、ポリビニルアルコール(PVA)粒子、n-buthyl-cyanoacrylate(NBCA: ヒストアクリル)等が適宜用いられる.瞬間接着剤のアロンアルファーと同じような性質を持つヒストアクリルは、液体の塞栓物質であり血管の中に入り血液と触れると短時間で重合し固まるため、脳動脈の末梢のシャントの閉塞に有効であるが、一瞬に注入し、すぐにカテーテルを抜去するという高度な手技が必要である.病変部位や血行動態、術者の技量等で、アプローチや塞栓物質を選択する.


経静脈的アプローチ:大腿静脈から内頸静脈まで親カテーテルを進める.さらにその中を、脳静脈洞経由で、頭蓋内までマイクロカテーテルを進め、プラチナコイルを用いて、シャント部の直後の拡張した部分(dural sac)を閉塞する方法である.大量のコイルを必要とする場合や出血性合併症が起こる場合があり、症例毎にその適応を決める.


小児、特に新生児の場合、大腿動脈の径が小さく、また病変のシャント量が非常に多い場合には治療は簡単ではない.一回の治療で使用可能な造影剤の量(通常、6 ml/kg)の制限もあり、必要に応じて塞栓術を繰り返す.治療には、血管内治療医、産科医、新生児科医、小児麻酔科医、小児循環器内科医、脳神経外科医、放射線科医などのチームによる集学的治療が必要である.


参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012


2007.3.7記


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